日本では年間3万人以上の人々が自らの手で命を絶っています。さらに、未遂者数は最低でも既遂者数の10倍にのぼると推定されています。そして、既遂あるいは自殺未遂は、絆の深かった人々に深い心の傷を残します。このように、自殺とは死にゆく人だけの問題ではなく、毎年、非常に多くの人々の心の健康を脅かす深刻な問題となっています。
 「なぜ自殺が起きてしまったのだろうか?」「どうして自殺を防ぐことができなかったのだろうか?」というさまざまな疑問がのこされた方を圧倒します。その結果、強い不安焦燥感を覚える人もいます。疑問、自責感、不安焦燥感ばかりでなく、故人や職場に対して激しい怒りをぶつける人もいます。亡き人によく似た年齢や姿の人を街中で見かけると、どうしても後を追いかけてしまうという人もいます。
 自殺が起きると、こういった嵐のような感情がのこされた方を襲います。日本の社会では、これまで自殺が起きても「時間の経過が心の傷を癒す」「そっとしておくのが一番だ」といった考え方が強かったように思われます。たしかに、多くの人は、時とともに愛する人を失った心の傷から立ち直ります。しかし、愛する人が自殺で亡くなってからかなりの時間が経った後に、不安障害(突然の強い不安焦燥感、動悸、過呼吸発作)、PTSD(心的外傷後ストレス障害:感情が枯れ果てたようになる、それとは正反対にひどく神経過敏になる、恐ろしい場面を思い出させるような所をことさら避ける、恐怖に満ちた光景が突然に目の前に現われる、悪夢で目を覚ます)、うつ病(眠れない、食欲がわかない、気分が沈む、死を考える、これまで関心があったことにも興味を失う、仕事の能率が落ちる、注意が集中できない、決断力が鈍る)などに罹り、専門の治療が必要になる人もいます。最悪の場合、自殺が連鎖的に起きる群発自殺という現象さえ起きることがあります。
 そこで、のこされた方を適切にケアする必要があります。温かい手を差し伸べてください。表面的な慰めの声をかけるのではなく、その気持ちに一生懸命に耳を傾けてください。一緒にそばにいて、共に時を過ごすことが最上の対応であることさえあります。十分な睡眠や食事が取れているか、感情が不安定になっていないか、酒量が増していないかなどといった基本的な点について見守ってください。そして、少しでも心配に感じたら、専門家のもとを受診するように勧めてください。しかし、のこされた方がこのようなアドバイスを受け入れないこともあるでしょう。その場合には、どのように対応したらよいかという助言を相談従事者が専門家から受けてください。それだけでも、その後の展開は大きく変わってくるはずです。
なお、自殺が起きたのは職場の責任だと考えて、助けの手を拒絶する方もいます。そのような場合には、親しいキーパーソンを探し出して、その方に注意すべき点を教えて、のこされた方を見守るように働きかけてください。
 なお、この表などを用いて、のこされた方々(家族、同級生、同僚など)に、起こり得る症状を説明する際に役立ててください。そして、対象となる人々がわかりやすいようにこの表の中で使う言葉を工夫してください。さらに、地域で利用できる相談機関についての情報なども具体的に挙げておくことが大切です。
 
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